@の手術中の放射線療法は、施設の完備された大学病院などでないと、行えません。そこで、手術時の切除部位の切除範囲をなるべく大きくすることがポイントになります。
今回実施した方法は、有形弁皮膚移植という方法で、肘の皮膚を帯状に切開し、腫瘍切除部位まで、引っ張ってきて縫合するというものです。ここで、さらなるポイントしては、移植皮膚の血行を壊さないで、皮膚を移植することです。
手術後2か月目の写真です。
飼い主さん曰く、あまり違和感は、ないとの事です。また、採食も問題ないようです。
症例5 縫合糸反応性肉芽腫
2歳8か月の猫ちゃんです。
本症例は、遠方の病院にて以下なる治療を受けていましたが、芳しくないとのこで来院しました。
2011.9.22に腎臓の周りに肉芽腫(お腹の中で肉の塊が出来てしまう。)が発生したそうです。手術を試みましたが、癒着がひどく腸の3/4の切除が必要なため、手術は、無理とのことで、途中で中止しました。この際、出血が多く認められ為、他の同居猫より輸血を受けたそうです。
その後、ステロイドと抗生剤の一か月投薬で、、肉芽腫は、小さくなったそうです。そして、3か月休薬したところ、元気が消失し、皮膚に瘻管(皮膚に穴が開口している管)が出来、膿が出続けているとこ事です。膿の吸引と消毒に、一週間に1〜2回、通院していたそうです。
そして、1年4か月の通院治療生活を行って、飼い主さんは、かなり疲弊しておりました。年齢が2歳8か月で、このまま一生、薬を飲み続け。消毒を続けなければいけないのかと、悩まれていました。
最初の診察にて、お腹の中に、男性の拳の2倍程度の肉の塊が触診できます。頭側は、胃の後ろ、尾側は、膀胱まで肉芽腫(肉の塊)があるようです。レントゲンで撮影してもかなり大きいです。その後、エコー検査を行ったところ、腎臓、脾臓、膀胱、腹大動脈、小腸に癒着がひどく嚢胞(水ないし膿の様な水分が貯まった袋)が多数貯まっていました。
まず、この時点で、手術してもいい結果は望めないと考えます。
肉芽腫を、もう少し小さくして、手術すべきだと判断しました。また、この肉芽腫の原因は、避妊手術時に使われた縫合糸に反応して起こっていると思われます。縫合糸に対する過敏反応のようなものです。この縫合糸の除去も必要と思われます。。
近年、このようなケースは、増加傾向にあるように思われます。これは、体質的なもので、避妊手術を行った獣医師に過失は、ありません。
最初に7か月、抗生剤とビタミン剤を投与し、肉芽腫の縮小化を図りました。徐々に肉芽の範囲も減り癒着も以前よりは減少しました。手術を行っててもいいレベルに達したと思われました。
左写真は、投薬前の写真 右写真は、投薬後の写真
上記は、腹部のレントゲンですが、肉芽が縮小した為、右写真の方が、お腹が小さいのがわかると思います。(白いところがお腹です。白い部分の幅が狭いのが解ります。)
ここからの治療のポイントは
1.バリウム検査を実施し、肉芽(肉の塊)と腸管の位置関係を把握すること。
2.エコー検査にて、癒着、嚢胞(化膿した液体が貯まっている袋)の位置、数を把握する事。
3.レントゲン、血液検査、心電図、尿検査を行い、麻酔に耐えることができるかを検査する事。
4.肉芽腫の切除は、一般的に出血が非常に起こりやすいの、輸血のできる猫を準備し、血液が合致するか否かの 検査を事前に行い、必要性があればすぐ輸血ができるようにしておく事。
上記検査にて、癒着は、数多く存在するが、以前より改善していること。小腸の一部に、肉芽による狭窄(腸が狭くなっている事)が存在していること。麻酔は、掛けられ、ある程度の時間には、耐えうる事。輸血の不適合もない事。
以上より、手術に踏み切りました。肉芽腫の手術に関してですが、
1.かなり微細な手術になります。肉芽を正常組織から、剥がす場合は、膜を必ず切除する必要がある事。
2.肉芽腫の形には、規則性が全くない為、丁寧な切除が必要な事
3.神経は、なるべく損傷しない事、主要な血管は、絶対に損傷しない事
4.出血しやすい手術ですが、出血をなるべく抑える事。
5.肉芽のの完全切除を、理想とする事
上記内容を実施するには、0.2-0.5mmの膜を、メスで、剥離(剥がす)する技術が必要です。出血も多い可能性がありますので、慎重な手術が必要です。
手術は、お腹に、房状の肉芽が多数認められ、一つずつ切除を行いました。化膿した袋も、数多く認められ切除しました。また、この肉芽の原因である糸も摘出できました。一部、腸に走行する血管と腎臓に流入する血管に癒着がありましたが、すべての処置を終え、無事閉腹しました。出血は、ほとんどなくなく輸血の必要性は、ありませんでした。(因みに、原因となっていた縫合糸は、僅か1-2mmの長さです。)
その後、数か月間、内服し、手術後8か月が経過していますが、再発はなく、経過良好です。。
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